ビジネスモデルの全体像や会社の強みを
図版やイラストを使って「見せる」統合報告書

近年、従来のIR資料を見直し、財務・非財務を一冊にまとめた統合報告書を制作する上場企業が増えています。はじめて発行する場合、機関投資家を対象読者の中心にしながらどこまで広げるか、そして企業の独自性や強みをどう表現するか、熟考することが大切です。今回は、不動産業界の課題解決に寄与している、株式会社いい生活様の「はじめての統合報告書制作PJ」について代表取締役CFOでプロジェクトリーダーを務めた塩川様からお話をうかがいました。

社会課題に向き合う姿を
ステークホルダーに届ける



中野 統合報告書の制作に興味を持たれたのは、いつ頃ですか?

塩川 2019年から2020年にかけてですね。世の中のESGに対する関心が高まるなかで、我々もそのニーズにアプローチする方法を模索していました。そこで、株主総会の招集通知と一緒に送付していた年次報告書を見直そうと決めたのです。いい生活は、「事業そのもので社会課題を解決する」経営スタイルを目指しています。実際、不動産業界のIT化が進むことで生まれるメリットはたくさんあります。

中野 具体的にはどのような利点があるのでしょうか?

塩川 まず、市場が適正化されます。旧来の不動産仲介の方法だと、情報格差が生まれやすく、取引にかかる時間も膨大です。そこで我々は、導入のハードルが低い不動産業界向けのクラウドサービスを開発しました。これにより、従来よりも多くの情報が市場に出てきて、適切かつ合理的な物件選びが可能になったんです。また、情報をデジタル化することで紙資源の使用量も抑えることができます。

中野 事業を通じて、経済はもちろん、環境にも良い影響を及ぼしているのですね。

塩川 我々はそう自負しております。ただ、取り組みについて世の中に発信していく機会は少なく、その点がもどかしくて……。だからこそ、統合報告書の制作にふみ切ったというわけです。

中野 統合報告書を制作するにあたり、アドバンドに声をかけてくださった理由やきっかけをうかがえますか?

塩川 年次報告書や採用パンフレットを制作する際に、できるだけ多くの印刷物をチェックするようにしていたんです。そのなかでもアドバンドさんから届いたダイレクトメールは、デザイン・内容ともに十分なクオリティがあり、コンテンツから一緒に考えてくれそうだと感じたからです。

中野 ダイレクトメールを送付した当時はまだ、統合報告書を発行するのは大企業だけで、中小・中堅企業まで広がってはいませんでした。ただ、内容や使い方によっては、株主・投資家以外のステークホルダーにも、自社の価値を発信できる統合報告書のニーズはあると信じています。当社の思いが塩川様に伝わり、縁を結んでくれたことに感謝します。


価値協創ガイダンスを軸に
ESGへの取り組みを伝える



中野 今回は、経済産業省が推進する「価値協創ガイダンス」をガイドラインとし、統合報告書の制作を進めていきました。

塩川 統合報告書を作るのがはじめてだったので、一定の基準があるとページ構成を考えやすいと思ったからです。価値協創ガイダンスと統合報告書のコンテンツは、必ずしもすべてがイコールではありませんが、参考資料としてかなり役立ちましたね。

中野 24ページとコンパクトながら、経営理念やビジョン、ESGに対する方針や活動など、ガイドラインで重要とされている内容をしっかり反映することができました。いい生活様と同等の事業規模で、特に同一カテゴリの商品を扱っている企業様にとって、よいモデルケースになると思います。

塩川 最初から完璧なものにしようとすると、お金も時間もかかるので、まずは「作る」ことが大切ですよね。ビジネスと同じで、トライアンドエラーで進めていけたらと思うんです。後から「この取り組みについてもっと言及すべきだったな」というのが出てきたとしても、それは次回に反映すればいい。そういう意味では、肩ひじ張らずに作れたかなと思います。何より、アドバンドさんの支援のおかげです。

中野 今回の制作は、コンテンツの大枠を塩川様に決めていただき、我々が見せ方を考えるという役割分担でした。当社からの提案で、何か印象に残っていることはありますか?

塩川 一番は「価値創造プロセス」のデザインですね。仕事柄、文章で説明するのは得意なのですが、こういった見せ方については門外漢のため、事前にフレームワークを提示していただき、とても助かりました。当社が社会の変化や課題に対してどのように向き合い、最終的にどんな価値を生み出しているかが、ひと目で分かります。

中野 価値創造プロセスは統合報告書に欠かせない要素ですが、初めて作るとなると、なかなか整理が難しいですよね。そこで当社からフレームワークを提示したのですが、無事に制作の一助となったようで安心しました。


インタラクティブPDFで
ニューノーマル時代に適応



中野 インタラクティブPDFの採用についても、アドバンドから提案させていただきました。Web上で運用してみていかがでしたか?

塩川 やはり、使い勝手が良いですよね。私自身、さまざまな企業の統合報告書を見てきましたが、良くも悪くも情報量が多すぎて。特にページ数が多いと、必要な情報を探すのは骨が折れました。その点、どこに何の情報があるかが一目で分かり、ワンクリックでページ遷移ができるインタラクティブPDFは、ユーザビリティが高いフォーマットだと思います。

中野 今回制作した統合報告書についても、ナビゲーションを設け、必要な情報へアクセスしやすい作りに仕上げました。新型コロナウイルス感染症の影響も後押しし、デジタル化が加速する現代において、インタラクティブPDFの需要はますます高まると予想しています。

塩川 紙媒体が完全になくなることはないと思うのですが、多くの人に見ていただくという意味でも、統合報告書のデジタル化とインタラクティブPDFの活用が重要ですね。


読者のリテラシーもふまえ
最適な見せ方を選択する


中野 さきほど、制作しながら内容をブラッシュアップしていけたら、というお話がありました。今回の制作をふまえて、次年度の希望をお聞かせください。

塩川 そうですね。基本的には、今回制作した価値協創ガイダンスを根拠としたページ構成は変わりません。ページ数を増やせたら、追加したい項目はあります。例えば、サプライチェーンとの健全な関係性を維持するための「パートナーシップ構築宣言」への参加や、高校生がプログラミングに対する知識を競い合う「情報オリンピック」への協賛とか。オフィスに設置したマッサージ室も紹介したいですね。実は鍼灸師も社員として雇っているんです。長い時間、座って仕事をするエンジニアが少しでも働きやすいようにと、このような制度を用意しました。

中野 ユニークな制度ですね(笑)必ずしも大きな取り組みだけが、読者の関心を惹くわけではありません。いい生活様の個性が出るページにしたいですね。

塩川 ありがとうございます。自分たちにとって社内の取り組みは「当たり前」だからこそ、社外の方の視点が大事です。

中野 我々は支援会社だからこそ、より読者と近い視点から、情報を取捨選択することができます。今回も、掲載要素の抽出については、私ども主導で提案させていただきました。

塩川 ミッションやビジョンは、私たちの中では当たり前すぎて水や空気のような存在。しかも、不動産業界に特化しているため、読者が知りたい情報になかなか気づくことができません。内容・表現ともに、自分たちにとって「気づき」を得られる統合報告書を期待しています。

中野 一口に読者といっても、機関投資家と個人投資家ではリテラシーに大きな差があります。特に後者のような業界に対する知見が少ない方々だと、文章だけでは伝わりづらいはず。そういった読者層にも、いい生活様の魅力がしっかり伝わる表現方法を提案したいと思います。今後も、どんどんブラッシュアップしていきましょう!(笑)本日は、お時間をいただきありがとうございました。


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