社員と求職者の心を動かす、統合報告書を視野に入れた
サステナビリティレポート
国内外でヘアカットサービスを提供するキュービーネットホールディングス株式会社様。
理美容業界で唯一のプライム市場の上場企業として、業界初となるサステナビリティレポートを発行されました。
加速する少子化や業界全体の人手不足を受け、主な読者ターゲットに想定したのは社員と求職者。
そんなこだわりの冊子に込められた想いをお聞きしました。
支援会社の手を借りながら
業界初のレポート制作へ

中野 まず、キュービーネットホールディングス(以下:QBネット)様が実施してきた、これまでのサステナビリティへの取り組みについてお聞かせください。
平山様 約3年前から、当社ではSDGsの指標に基づく取り組みを公表しています。また、大手の商業施設で使用している再生可能エネルギーを店舗の電力として使用するなど、社内外で協働しながら、環境の負荷低減に取り組んできました。ただ、当社独自の施策や、オリジナリティのある打ち出し方はなかなか確立できていなかったんです。そこで、私が会社を代表して、さまざまな業界の方が集うサステナビリティに関する毎月の定例勉強会に参加するようになりました。そこで学んだことを社内報に掲載するなど、少しずつアウトプットしている状況でしたね。
宮城様 私も、よく取引先の方から「御社の水を使わないビジネスはなかなか真似できない」というお言葉をいただいていました。創業当初から未来を先取りしたビジネスモデルを確立している一方、当社で働く社員には、その凄さへの実感があまりない様子だったんです。なので、YouTubeや社内報を使って、情報をかみ砕きながら少しずつサステナビリティの取り組みを浸透させていました。
中野 そこからサステナビリティレポートを制作する話が持ち上がったんですよね。こういったIRツールは任意の発行物なので、作らない選択をする会社も当然あります。そのような中、予算や手間をかけてまでQBネット様が制作を決めた経緯を教えてください。
平山様 当社は理美容業界で唯一のプライム上場企業であり、研修制度も他社では類を見ないほど充実しています。新しいことへのチャレンジを後押ししてくれる社風なので、「理美容業界のサステナビリティレポート第一号を発行したい!」という思いで、制作することを決めました。
中野 なるほど。こういったツールを外部の会社に頼らず、社内で制作する企業もありますが、支援会社はどのようなポイントで選定したのでしょうか。
宮城様 「私たちが培ってきた歴史や取り組みを、新しい視点から表現してくれるか」という点を重視していました。今回は初回の発行ですので、このサステナビリティレポートは言わばバージョン0。ここまでの歩みを、いかに読みたくなるようなレイアウトに落とし込めるかがポイントだと感じていました。選定の際は複数社から資料を取り寄せましたが、アドバンドさんに送っていただいた参考資料やノウハウブックを拝見すると、キャッチーな小見出しや、ビビッドな色合いなど、私たちの想定にないアイデアが冊子に盛り込まれていたんです。あとは、中野さんとデザイナーさんのキャラクターですね(笑)このメンバーなら円滑なやり取りができると思い、アドバンドさんにお願いしました。
中野 ありがとうございます。IRツールは制作時間も長いですし、担当者との相性は重要ですよね(笑)
冊子全体のガイド役に
新たなキャラクターが誕生

中野 YouTube、社内報と、これまでの施策でサステナビリティに対する素地を育まれていったかと思います。その集大成でもある本レポートでは、どのような編集方針のもと制作されたのでしょうか。
宮城様 まずは「私たちの身近な人が、興味を持ってこの冊子を読んでもらえるように」という点を念頭に置いていました。もちろん、投資家や将来的なお客様もターゲットには入れていましたが、まずファンになってもらうべきは、人材確保を鑑みれば当社の社員や、理美容師の資格を持つ求職者の方々です。言葉の組み合わせ方など、どうしたらわかりやすい表現になるのか、社内で議論を重ねていきました。また、参考として他社の統合報告書やサステナビリティレポートも読みましたが、その内容に惑わされず、「私たちにしかできない表現で、理美容師に想いを届ける」ことは、制作当初から指針にしていました。
平山様 当初から、このサステナビリティレポート制作は自分たちの頭の中にある情報を具現化し、さらに会社を見つめ直す絶好の機会だと思っていました。また、それだけでは我々の自己満足になってしまうので、せっかくなら求職者や当社をよく知るお客様にも新たな発見をしてほしい。そんな想いを込めて、全体の構成を練っていきました。例えば、第1章の歴史ページでは、「水を使わないというビジネルモデルそのものが、当社のサステナビリティである」という切り口にすることで、説得力を持たせています。事業の裏にあるドラマを感じてもらえると嬉しいですね。
中野 見開きをキャッチコピーだけで表現したり、「Q兵衛」というキャラクターを新たに作ったり、他社と比較しても個性的な見せ方や表現が多い印象です。そこまで振り切れる会社は多くない気がしますが、社内で反対意見は上がりませんでしたか?
平山様 そこはありませんでした。なぜなら、社長も「当社で働く社員が、会社の歴史と想いについて理解できることを第一に制作したい」と言っていたんです。ですので、イラストを使うことに迷いはありませんでした。その一方で、イラストレーターを選定する際は、どんな雰囲気の絵が社風に合っているか、身近な理美容師にヒアリングをしました。
中野 確かに、絵のテイストや色合いは細かく擦り合わせましたよね。今回の冊子では全編を通じてイラストの使用頻度が高く、1冊の品質にも関わる部分です。Q兵衛にはQBネット様のどのような想いが込められているのでしょうか。
平山様 Q兵衛が文明開化時代の髪結師の姿なのは、私のこだわりです。当社は海外にも店舗を構えているため、海外の投資家やお客様のウケがいいだろうと考えたんです。また、冊子では断髪令の話が出てきますが、このストーリーが業界の内情にも絡んでくる。こうした仕掛けにより、理美容業界のことを知らない方が読んでも、納得感のあるものになると思いました。
中野 実際の反応はいかがでしたか?
平山様 当社の社外取締役に読んでいただいたのですが、「すごくよかった」とのことでした。その方は海外にお住まいで、日本のサステナビリティに対する意識の低さも危惧している。その社外取締役からお褒めいただき、頑張った甲斐がありました。今後は、社内向けの動画や店舗向けのリーフレットにも、Q兵衛を登場させようと思っています。
この冊子は「はじめの一歩」
良い反響を次号のバネに

中野 初めてのサステナビリティレポートを制作する上で、特にご苦労された点はありますか。
宮城様 第2章の「我々の存在意義」や未来への取り組みについて、わかりやすく伝えることに苦労しました。そもそも、当社のビジネスモデルはヘアカットのみ。シンプルがゆえに、存在意義をどう伝えるべきか試行錯誤しました。実は、当社はサステナビリティレポートの発行前にリブランディングとコーポレートサイトの改修をしているのですが、そこで、「LESS IS MORE」という我々の存在意義を示す言葉を使っていました。この言葉をレポートに掲載するにあたり、そもそも「LESS IS MORE」とはどういうことなのか、改めて平山と原点に立ち返り考えを巡らせました。また、4つのチカラとして「省力」「省手間」「省時間」「省資源」を定めていますが、それぞれがどんなふうにつながってヘアカットサービスを作っているのか、今後どういった影響を世に及ぼしていけるのかを考えるのが大変で。もちろん中野さんやデザイナーさんにもご考案いただいたものの、私たち自身が深く理解していないとわかりやすく表現できないので、一番時間をかけて修正を重ねました。
平山様 まったく同じです。なんとか形にはしたものの、私も現状のページがベストだとまだ思えていなくて。説明しようとすればするほど、どうしても文字が増えてしまうんです。さらに、その文章をビジュアル化することの難しさを、今回の制作で思い知りました。Q兵衛を褒めてくれた社外取締役からも、「第2章から急に難しくなるね」と言われてしまい……(笑)次年度はもう少しページを使って解説できればと考えています。
中野 統合報告書をはじめとするIRツールは、どうしても財務・非財務という言葉に縛られてしまう傾向があります。あえて「サステナビリティレポート」と銘打っているのは、この冊子が企業価値を網羅した1冊だからだと感じました。今回の発行後、社外でどのような反響がありましたか。
平山様 実は、以前テレビで当社の特集が組まれたことがあるのですが、番組のプロデューサーの方とはまだ付き合いがあって。最近仕事でお会いした際、その方が「読みましたよ」と言ってくれたんです。さらにリリース記事をネットに掲載したところ、その記事が25のメディアで紹介され、「株主手帳」や「広報会議」といった雑誌媒体から取材のオファーも舞い込みました。特に、「広報会議」は当社でも定期購読しており、制作の際に過去の記事を参考にしていたんです。まさか1年後、その特集に当社のサステナビリティレポートが紹介されるとは夢にも思いませんでしたのでとても嬉しかったですね。
中野 それは当社としても嬉しいご報告です! 今号の改善点や、次号制作に向けてお考えのことがあれば教えてください。
平山様 当社の存在意義を示す第2章の伝わりにくさを課題としており、次はうまくQ兵衛を使いながら、わかりやすい表現にしていきたいと思います。また、第3章で紹介したサステナビリティの取り組みも、まだまだ道半ばというところ。さらなる制度改革が必要だと感じています。今号はサステナビリティレポートのバージョン0として発行しましたが、良いところは伸ばし、反省点は改善しながら、次号は統合報告書に昇華させたいと考えています。
中野 次号もぜひ当社でお手伝いできればと思います。本日はありがとうございました。
【QB HOUSEのあゆみ】
日本初のヘアカット専門店チェーンとして1996年11月に神田に1号店をオープン。ブルー・オーシャン戦略の成功事例としてビジネスモデルが高く評価される一方で、業界唯一の社内カットスクール「ロジスカット」が多くの賞を受賞。現在は国内563店、海外128店の計691店舗を展開(2024年6月期末)。2024年春には創業以来、日本国内の累計ご来店客数が3億人を突破した。
