新卒で入社した印刷会社を2年で退職し、専門学校への再進学、DTP※オペレーター勤務を経て、デザイン制作会社への転職を果たしたのは、1996年4月のことです。まだインターネットも普及していない、アナログの時代。当時は、大手印刷会社とか広告代理店の「下請け」として制作業務を委託され、パンフレットやチラシを制作する日々を送りました。私はデザイナーとして徐々に力をつけ、依頼される案件も少しずつ大きなものに変わっていきました。当時は「平成デフレ」の時代。元請けの会社からは毎年、当然のように値切られます。ところが、よくよく考えてみると、企画を考え、撮影や取材をし、編集、デザイン、原稿作成など、ときには徹夜や休日出勤もいとわず苦労しているのは、すべて私たちクリエイターです。そんな毎日を送るうちに、仕事を「丸投げ」するだけの元請け会社に対し、疑念が生じるようになりました。そこで、「クリエイター自らがお客様を開拓できないか?」と考え、直販での取引を増やそうと、私はひそかにマーケティングを学びます。失敗をくり返しながらも、少しずつ実績が出るようになりました。私は9年半という下積み生活にピリオドを打ち、2005年に独立。そして、翌2006年の6月に法人化したのが、現在のアドバンドです。起業するにあたり、約束していたことが2つありました。一つは、お客様に対して正しい価値を提供するため、一切「下請け」をせず、すべて直販で仕事を請け負うこと。もう一つは、社内に営業部門を置かず、デザイナーやライターなど実制作を熟知したクリエイター自らが、お客様の窓口を担当することです。適正価格とムダのない対応による、お客様との「正しいつながり」。今でもこの2つの約束は、守りつづけています。
下請けはやらない。営業はいらない。2つの約束を誓い起業したものの、新規でお客様を見つけるのは簡単ではありませんでした。60万円もの費用をつかって、掲載した新聞広告の反応はゼロ。社員と分担してテレアポをやってみたものの、ストレス耐性のない私自身が、3件の電話で音を上げることに……。数多くの失敗も経験しましたが、米国が発祥のダイレクト・レスポンス・マーケティングと出会います。学べば学ぶほど奥が深く、徐々に成果が出始めるようになりました。最初の成功は、ダイレクトメールでした。企業調査会社からリストを購入し、格安のネット通販でパンフレットを印刷。発送代行の会社から、見込客に郵送してもらうという方法です。ここでは、私が得意とするセールスコピー・ライティングの力を存分に発揮できました。例えば、中小企業の社長に宛てて3000件のダイレクトメールを送ります。「興味がある」と手を挙げてくれた社長に対し、会社案内や営業カタログの提案をするのです。反応率はだんだん上がっていきました。そして、アドバンドの戦略を決定づけたのは、リスティング広告です。なかでも「社内報」という商品は、年間40万円ほどの広告費ながら、7年間で累計3億円以上の売上を達成するという、大きな成功をおさめました。これらの取り組みをまとめたノウハウを「販促の設計図」と名づけ、2020年9月に書籍化。翌2021年からは、これを元にしたコンサルティング・サービスもスタートしました。マーケティングの手法は時代とともに変化しますが、「お客様にとって価値あるコンテンツを提供する」というコンセプトが、色あせることは決してありません。自社で培ったノウハウは、お客様とエンドユーザーとの「正しいつながり」を生み出す提案に活かしています。
アドバンドが、ある市場に参入するとき、お客様の発注先が限定されているケースがありました。この場合、商品の価格が高止まりするだけでなく、提供者側の理屈で取引が成立することになってしまい、サービスの受益者であるお客様は不便を被ってしまいます。2つの事例を挙げてお話ししましょう。一つ目はIR関連のサービスです。上場企業の多くは、ごく限られたIR専業の印刷会社や支援会社に、制作物を依頼していました。その理由は、財務情報を扱うため専門性が求められるからです。たしかに、実績豊富な発注先なら、安心感があるのは事実。ところが、法定開示や適時開示とちがって「任意」の制作物にもかかわらず、自由な企画や表現手法に乏しい支援会社は少なくありません。これでは、お客様の目的や要望にそぐわない制作物になってしまいます。ここでは、異質なIR支援会社として存在感を示すことができました。もう一つは、社史/周年記念誌です。この商品の場合、中堅の出版社や大手印刷会社が発注先の多くを占めていました。それまでの一般的な社史は、読み物が中心で、文章ばかりで分厚い冊子がほとんどでした。理由は、企業ごとの“らしさ”を求めると、企画提案やデザインに手間がかかるからです。そこで、アドバンドが市場に打ち出したのは、「社史・記念誌は、もっと自由でいい」というコンセプト。社史の担当者になった方へ、新たな選択肢を提案することができました。私たちは意識的に、一部の事業者が独占している市場、あるいは、価格が高止まりしていて、お客様が臨機応変に発注先を選べない市場に参入してきました。お客様は本来、自社のニーズや要望を満たすため、もっと自由に発注先を検討できるはずです。馴れ合いにならず、適度な緊張感をもてる関係。それが、「正しいつながり」だと思うのです。
一般消費者がインターネットを使う生活を送るようになり、20年以上が経ちました。この間、まさに“激増”といえるほど、次々に新しいメディアやサービスが誕生しています。この流れがB2CからB2Bへと広がった現在、企業の広告・広報活動は著しくデジタルに偏重していると感じます。「MAを導入してDXを進めましょう」「SNSマーケティングで企業の認知が向上します」「動画を配信することで企業イメージを刷新しませんか」など、【いまどき】のサービスを売り込まれたことは、あなたも一度や二度ではないと思います。ここで登場する、MAとか、SNSとか、動画は、しょせん手段にしか過ぎません。そもそもお客様には、それぞれ固有の悩みや課題があるため、商品・サービスありきの改善提案や解決策を導入したところで、成果があるかどうかは疑問です。なぜ、こんなことが起こるかというと、ほとんどの事業者は、自社の都合で売りたい商品をもっているからです。MAベンダーは「自社が開発するシステムを導入してほしい」し、動画制作会社は「映像関連の仕事を発注してもらいたい」のが本音です。お客様にとってのベネフィットを、第一に考えているわけではありません。アドバンドは、3つのサービスを掲げてはいるものの、特定の商品に固執する会社ではありません。お客様それぞれの悩みや課題に沿って、印刷物・Web・動画といった媒体から、あるいは、目的に対して最も効果が高い方法を選定し、優先順位をつけて提案することができます。私たちが考える「正しいつながり」とは、しがらみや上下関係がなく、クライアント企業にとってベストな選択肢を正直に提示できる環境のこと。常に全体最適を考えた提案を心がけています。
会社設立の翌年、さっそく採用活動をスタートしました。そして、知人の紹介や専門学校への求人により5名体制に。次の年には、大手就活サイトに登録して本格的な新卒採用を行い、2009年4月に3名の大卒社員が入社しました。当時の売上を思い出すと、採用コンサルティング会社に支払った数百万円は、大変大きな投資でした。3名のうち1人は5年半勤務の後、結婚を機に退職しましたが、2名の社員はディレクターとなり、10年以上たった今も会社の中心的な存在として活躍しています。そう考えると、勇気を出して思い切った決断をしたことは、まちがいではありませんでした。実は、私たちクリエイティブ業界は、ほとんどが中途採用です。退職した社員の代わりに、即戦力が必要だという会社の事情があること。そして、特にデザイナー職は、ソフトの使い方など専門知識が求められるからです。では、なぜ私たちは新卒採用を重視してきたのでしょうか。たしかに、技術があるに越したことはありません。しかし、当社はクリエイターがお客様の窓口を兼務するため、技術よりも人物重視の採用を心がけているからです。「中小企業は、中途採用の市場で優秀な人材を獲得できない。新卒採用をすべきだ」という採用コンサルタントの主張にも共感できました。そこで、独自の研修制度をつくり、ソフトを使ったことがない社員でも、3か月ほどで戦力として活躍できるプログラムを作成。毎年アップデートしています。手前味噌ですが、おかげさまで、お客様からのクレームはほとんどないのが自慢です。クリエイターは、アーティストではありません。お客様の課題や目的を理解して、ものづくりで応える専門職です。お客様と、パートナーと、そしてクリエイターである社員同士が、「正しいつながり」を共有できる環境を大切にしています。
創立して十数年は、「新規のお客様との出会いを、いかに増やすか」の戦いでした。今でこそ、中堅・大企業からの引き合いも増えましたが、人脈・信用・実績と【ないないづくし】の中小企業にとって、新規のお客様を増やすことは重要課題です。しかも、多くの企業が売り上げアップに悩んでいることは、クライアントの相談内容からも明らかでした。そんなとき、ふと、アイデアがひらめいたのです。私には以前から、「いつか自分の本を出版したい」という夢がありました。なぜなら、仕事や将来について悩んだとき、たくさんの書籍に助けられてきたからです。その【恩返し】というわけではないですが、自分の考えを1冊の書籍にまとめてみたい、という願望が大きくふくらみ始めたのです。そして、夢が実現したのは、2020年9月3日のことでした。出版の構想がまとまったのは、2019年の5月のこと。A4用紙5枚の企画書にまとめ、ダイレクトメールのような方法で、出版社50社に郵送しました。幸運にも4社からの引き合いがあり、ビジネス書に強みをもつ翔泳社と、商業出版の契約を結ぶことができたのです。その書籍は、『新規顧客が勝手にあつまる 販促の設計図』。著名なマーケティングコンサルタントがSNSで紹介してくれたこと、雑誌やWebなど複数のメディアに取り上げられたことから、一定の評価を得ることができました。書籍の出版をきっかけに、事業の幅も広がりつつあります。講演・セミナーやオンライン動画の配信、中小・中堅企業の社長向け有料相談や販促コンサルティングとサービスを広げ、新規の問い合わせも増えました。海外の出版エージェントからのオファーがあり、書籍の台湾版も販売されています。「正しいつながり」を、日本全国へ、そして世界へ。そんな夢を描いています。
人物重視の採用方針に加え、家族的な社風だったため、コミュニケーション不足による問題で悩んだことはありませんでした。ところが、新卒で入社した若手社員の急増により世代間ギャップが徐々に拡大。さらに、ヒアリングしたところ、「上司によって指導方針がバラバラ」「何をみて評価しているのかが不明瞭」など、私は初めて組織の課題に直面することになります。同時期、世界中で蔓延した新型コロナウイルス感染症の拡大によって、多くの社員は在宅勤務に。感染の広がりは長期化が予想され、否応なく、組織づくりに向き合うことになりました。すでに始まっていた、アドバンドのビジュアル表現を統一するプロジェクト。これに関わる2名の社員から、提案を受けました。「外部の第三者の力を借りて、アドバンドの理念をリニューアルしたい」と言うのです。私の独断でつくった理念は存在してはいたのですが、ほとんど機能を果たしていませんでした。組織が一体になれるのなら、と即決し、2名の社員を中心に合計5名のチームを発足。ここに、組織づくりに強みを持つ専門の外部コンサルタントが加わり、約1年半に及ぶプロジェクトがスタートしました。初めての試みでしたが、これまでの出来事をふり返り、「アドバンドはどういう会社か。未来はどうあるべきなのか」を徹底的に議論する密度の濃い時間となりました。そして、本音でぶつかり合った結果、新たな理念が誕生。「正しいつながりをつくる。」というミッションを柱に、ビジョンと5つのバリュー、20の行動指針、これらに紐づく評価制度ができました。アドバンドの新たな理念が完成したのは、設立15周年の節目となる2021年のこと。これを【第二の創業】と位置づけ、これからも広告・広報のものづくりを通じて、お客様の成長に貢献していきたいと思います。